幼い頃の無力な悲しみも、少年時代の矛盾やためらいも、まだこの胸で形を変えて生きている。 それらを抱えても尚、微笑むことができるということが、つまりは大人になったということなのだろうか。
「おまえは昔から微笑えていた」
と、言われたこともあったけれど、どうだろう。 今の僕の微笑みはその頃と比べて、何か違うだろうか。 強くなれただろうか。大きくなれただろうか。広くなれただろうか。そして諦めてはいないだろうか。
秋の風を含んだ日差しが背に当たる。
訊いてみよう、と思った。 あの頃も今も、僕を一番近くで見ている人に。
小径をこちらへと歩いてくるその足音を聞きながら、僕は彼がなんて答えるかをしばらく考えた。 きっと、呆れた顔を軽く作って黙って鼻を鳴らすだろう。 その後で僅かに細められる瞳まで想像できる。
「さあな」
そう、きっとつれなくそう言って、その青い瞳で優しく僕を見つめるのだろう。
僕はそこまで想像すると、微笑みながら彼の到着を待った。